January 10, 2013
安部公房の未発表短編「天使」(昭和21年)が発見された!
新潮 2012年 12月号 [雑誌]
新潮社(2012-11-07)
小説家 安部公房が終戦直後の昭和21年秋、22歳で書いた未発表の短編小説が昨年見つかった。北海道に住む安部の実弟、井村春光さんが自宅に保管していた。それが文芸誌「新潮」12月号に全文が掲載されるや瞬く間に完売。
異例の増刷をしたという。
短編は「天使」という題で、A5判ノート19枚に黒インクで書かれていた。旧満州から日本への引き揚げ船内という過酷な環境下で執筆されたらしい。
安部の3作目の小説になる。左右の行を空け、横書きノートに縦書きしていくスタイルは初期の自筆原稿と同じで、安部の長女、安部ねりさん(58)が安部の青年期の筆跡であると確認した。保管していた井村さんは文学への関心が強く、安部が発表前の作品をよく見せていたという。
精神病院を抜け出した「私」の1日の物語。
人間を天使だと思い込む妄想を抱く男が主人公。通行人や看護人ら外界のすべてが天使に見え、自らをも天使と認識していく。
主人公が病室を見て、<固い冷い壁だと思っていたものが、実は無限そのもの>であったと語る場面にその後の「壁」を彷彿とさせる。
最後のセンテンスが実にポエティックである。
「記憶以前の記憶を呼び覚まされた様な懐かしさに、誘われる様になって私は垣ぞいに歌の聞えて来るその窓辺に近付いて行った。」