August 14, 2011
HERMES 【Din Tini Ya Zue】:紀元前5千年から伝わる刺繍デザインの行方
HERMES 【Din Tini Ya Zue】
エルメスは、常日頃から新作スカーフのデザインのために世界中の伝統工芸や文化などを調査している。
2011年春夏のテーマは "メキシコ" ということで、3年前の2008年3月にメキシコ市にある大衆芸術博物館(Museo de arte popular)の協力を得て、メキシコ中部イダルゴ州の山中に住むオトミ族の絵描きを探し出した。
オトミ族は、紀元前5000年前後(!)からメキシコ中部に住む農耕民族で、現在メキシコ全土に約28万人を数える。オトミ族は恥ずかしがり屋でおとなしく、山中に隠れているため混血があまり進まず、刺繍などの伝統文化を守られてきたらしい。
スカーフのデザイン下絵を描いたのは村の元小学校教師、エセキエル・ビセンテ氏。2歳のころから絵を描いており、イメージの源は村の聖地だ。天を指す高さ45メートルの岩がそびえ、村人は「世界の中心」と信じている。近くにはスペイン人に追われたオトミ族が隠れた岩山があり、蛇、鶏、少女などの壁画が残っている。
エセキエル・ビセンテ氏が下絵のスカーフは、スカーフはオトミ語で「Din Tini Ya Zue」(自然と人の出会い)と名付けられられた。
2011年3月から世界40ヶ国のエルメス店で売り出されている。このことが大企業の搾取と騒ぐむきもあるが、そういう世界の経済格差が生むアンバランスは存在するし、必ずしも悪いことばかりではない。エルメスは、デザイン使用料の他に、今後のスカーフ売上やデザインの著作権から得た利益で、刺繍職人の後継者育成センターを計画している。こういうデザイン料の以外の情報は残念ながら報道されない。
ちなみに、今回の初回デザイン料は、エセキエル・ビセンテ氏が10枚描いて、それをサンニコラスと隣村サンパブロエルグランデの女性計7人が刺繍を施した。
エルメスは、2つの柄を選びデザイン費を5千ユーロ(約60万円)支払った。うち半分は大衆芸術博物館の手数料。残りを職人たちの希望により収益はサンパブロエルグランデ小学校改築の資金に充てられた。
スカーフは、初回11万700枚製造され、5,360メキシコペソ(日本価格35,700円)で販売されている。(総売り上げ約41億円)
エセキエル・ビセンテ氏は 「村はうち捨てられた場所だった。オトミ族の文化が世界中で認知され、作品がもっと売れるようになるかもしれない」期待する。
普段の彼は下絵1枚を150ペソ(約1,040円)で売って生活しているのだ。