June 24, 2007
死と反対側に走る江口老人
川端康成「眠れる美女」
生意気なティーンの時になぜか邦画と日本の作家を馬鹿にしており、ルイス・ブニュエルとガルシア・マルケスは大ファンだったが、黒澤明と川端康成にはまったく関心が無かった。いま思えばこれもまた若気の至りである。
マルケスの新作「わが悲しき娼婦たちの思い出」の冒頭に本作の江口老人に対するオマージュが書かれている。それがずっと気なっていて初めて川端作品を読んだ。
江口老人は老境に差し掛かり、処女で眠らされている女性がいる海岸沿いの宿で生の精気を取り戻そうとする。そこは、売春宿などではなく、女性達はただ眠らされているだけなのだ。お互い素性もわからなければ、会話もない。江口老人はひたすら、生に執着しているようにみえて、実は死後を見据えている。死を覗けば覗くほど、生がぼんやりと過去から襲ってくるのだ。これほどの虚無感をデカダンなムードなしに精緻に描いてみせる川端康成氏に脱帽。
tabloid_007 at 19:57│Comments(0)│
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